ホーム最終戦を前にした突然の現役引退表明、そして、シーズン終了直後に発表されたザスパの社長兼GM就任の発表。群馬で育ち、群馬を代表する選手として国内外で活躍し、最後は、群馬でプロサッカー選手を終えた細貝萌だったが、彼のキャリアは、大好きな群馬でまだまだ続いていく。
この日は、現役引退と社長就任内定を兼ねた会見で、2部構成で行われた。
まず、初めに行われた現役引退会見では、「改めまして、2024年シーズンでサッカー選手を引退することになりました。本当にありがとうございました。」と、時折、言葉を詰まらせ、こみ上げるものを抑えながら短い感謝の言葉で始まった。
改めて、プロ生活20年を振り返り、「2005年にプロサッカー選手になってから2024年シーズンで20シーズン目という所で、今思えばあっという間に20年間が経ってしまったなという思い。僕自身はプロサッカー選手を夢みて、小さい頃からずっとサッカーをやってきて、たくさんの方に支えてもらって、たくさんの方が、自分の事を気にかけてくれて、本当に幸せな20年間だったなと思う。そして、この20年間、サッカーが自分に与えてくれたものは大きくて、ホントに自分の人生のほとんどのものは、サッカーが与えてくれたと思っている。」と応援してくれた皆さん、そして、サッカーへの感謝を口にした。
一方、生まれ育った故郷にあるザスパでの4シーズンについて聞かれると、「地元である群馬で、サッカー選手を終えられたことをすごく幸せに思っている。もっとサッカー選手として、ピッチ上でチームを勝たせることができるような選手でいたかったというのが正直な所だが、それでもたくさんの方が声を掛けてくれ、応援してくれて、それを感じる事ができた4シーズンだった。本当に幸せだった。」と喜びとともに、悔しさも口にしていた。
特にここ2シーズンは、なかなか試合に出る事ができず悔しい思いが続いていた。リーグ戦で見れば2023年は7試合、そして、今シーズン、2024年は、わずか4試合だった。
「20年間サッカーやってきた中でこれだけ試合に絡めなかったことは、ルーキーの時を含めなかった。この2シーズンなかなか試合に絡めなかった選手としてして、チームに貢献できなかった選手として、やはり、そろそろなのかなと思っていた。」
試合に出られず、引退も意識し始めたという。それでも、細貝の群馬への思い、サッカーへの思いは何ひとつ変わらなかった。
「試合に出られない中でも、ここから違う所に行ってサッカーをやる選択肢は持っていなかった。自分のやれることをやって、チームの力になりたい。なかなか、試合には、絡んでいけなかったけど、必死に自分の中では、自分自身と向き合って毎日練習に励んでいた。」と話す。
そんなにも強い思いをもってプレーするのは、チームでの役職関係なく、最年長者として、このチームを勝利に導くという責任と、そこに向かう強い覚悟を持って戦っているからだ。
「最年長として、チームを支える中で、この結果は当然責任は感じている。キャプテンをやった、2020年も降格しそうで、家族には、『もしも降格してしまったら、その責任をとって、その時点でサッカーを辞めようとチームに言うつもりだ。』と言って戦ってきた。その時は、何とか残留できたので、また来季がんばっていこうと思っていたが、なかなか試合に絡めなかったし、特に今シーズンは、早い段階で降格が決まり、なかなか勝利を皆さんに届ける事ができず、最年長である自分の責任は大きいと感じている。」と、このクラブでの、自分が果たそうとした思いを教えてくれた。
プロ生活の最終年は、20年間の中でも最も悔しい時間であったかもしれないが、細貝萌らしく、強い責任と、こだわり、そして、群馬愛を持って戦ってきた時間だった。
「プロサッカー選手になった時に、群馬でプロサッカー選手を終える、そこにこだわって、曲げずにやってきた。僕としてはカテゴリー関係なく、とにかく群馬でスパイクを脱ぎたいと思っていたが、それを達成できてすごく誇りに思っている。」と強い思いで語った。
誰からも愛され、慕われ、誰よりも強い思いで、責任感を持って戦い抜いた細貝萌のプロサッカー選手としての時間は、こうして幕が閉じられた。
その後、会場には、クラブアンバサダーの清水慶記さん、そして、チームメイトの風間宏希選手が登場し、花束を贈呈するとともに、メッセージが送られた。
清水慶記アンバサダー
「中学からの付き合いで、近くで駆け上がっていく姿を見て、正しい方向で努力をしたんだなと尊敬していた。またザスパを通じて、ともに歩んでいけることを嬉しく思う。」
風間宏希選手
「初めて話をしたのは2年前。こんなにもキャリアを築いてきた方なのに、物腰柔らかく、どんな時でも優しくしてくれた。だが、一緒にプレーした時に、こんなにも変わるのかというくらい闘争心をむき出しにするする姿に驚いたのを覚えている。これからもザスパのために活躍することを願っている。」
ふたりの登場で、それまでの硬い表情から一転、温かい雰囲気に包まれ、ようやく笑顔も広がった。
その後、休憩をはさみ、社長就任内定会見になると、今度は、選手としてピッチに立ったている時と同様に、引き締まった表情で、新たな役割への思いを語り始めた。
クラブは、細貝が、来シーズンから社長代行兼ゼネラルマネージャーに就任すると発表している。就任は2月1日付けで、来年4月に予定している定時株主総会で、正式に代表取締役社長に就任する予定だ。
自身は、現役引退後のキャリアをどう考えていたのだろうか。
「指導者にはそんなに興味がなく、現状、指導者のイメージはなかった。」
そうした中、赤堀洋社長から、今回の打診があったという。
「凄くうれしい事。群馬のクラブで何か仕事に携わっていける。僕はザスパ群馬が好きで、当然クラブも好きだし、群馬県前橋市出身だし、群馬のサッカーが成長していくことを考えるとザスパがいい方向に向かえっていかなければいけない、長期のプランを持ってやっていかなければいけないと思っている中での話だったのでうれしかった。」
これからも、群馬のために、ザスパのために何かできないか。そう思った矢先のオファーに、断る理由などなかった。
一方、なぜザスパは、細貝萌に打診をしたのか。赤堀社長は、「Jリーグや海外、日本代表と群馬で一番経験豊富な存在だ。そして、人間性に優れ、ファン、サポーターに愛される存在でもある。そうした事から総合的に考えてオファーしたし、最良の人材だと思う。ご本人も、覚悟をもって引き受けてくれた。その思いを裏切らない様、しっかりサポートしたい。」と説明した。
説明によれば、営業面やホームタウン活動については赤堀社長とともに、チーム作りについては、佐藤正美強化部長と連携しながら進めていくという。
サッカー選手としてのキャリア、郷土愛、人間性、どれをとっても申し分ない人材だが、クラブ経営、チーム作りは初めてだ。しかも、社長兼GMという重責をいきなり担う立場で大丈夫なのかと不安に思う人がいてもおかしくはない。
「『ホントにお前ができるのか?』と思われるかもしれないが、そこは、「好きだから」、「情熱だけ」でなく、例えば、クラブ経営においては、数字の部分に関してもより深く把握をしていかなければいけないし、自分がここにいる意味を明確にして臨んでいきたい。また、ヨーロッパで培った経験を活かして、このクラブが拡大していき、いい方向に向かうよう努力していきたい。」と思いを述べた。
全てにおいて完璧な人などいない。そして、人には優れた特徴があるものだ。細貝萌には、国内外で培ってきたプロ20年間のキャリアがあり、そこで育んできた人とのつながりがあり、高い人間性、そして、強い郷土愛がある。これほどのものを兼ね備えた人材など他にいない。そうした魅力で、仲間とともに、支えてもらう所は支えてもらいながら、しっかりと進めるのも他の人にはできない、細貝萌の特徴だ。そんな自分の良さ、魅力を最大限に生かしながら、素晴らしいクラブ作りに邁進してもらいたい。
サポーターが気になるのは、どんなザスパができるのだろうかという事だ。
「気持ちのある選手がプレーしてもらいたい。群馬に対して、必ず飛躍したいと思える選手に来て欲しい。そして、若い選手含め、世界に飛び出す選手にも力を注ぎたい。国内だけでなく、海外にも目を向けながら進めたいと思う。」
自身同様、気持ちのある選手というのが大前提。そして、海外を意識し、海外とのつながりを持ちながらというのも、ザスパにとっては新たな試みだ。
「ザスパとしてしっかりとしたフィロソフィー(哲学)を作りたい。そのフィロソフィーだからこそ、こういう監督に来てもらいたい。その中で、監督のストロングも活かしたいし、選手、クラブが一体となって、こういうサッカーをするというものを目指した。まずは、しっかりとフィロソフィーを掲げて前進していきたい。」と意欲を見せた。
J3降格となった。赤堀社長の言葉を借りれば、「体制を見直し、ゼロからやり直す覚悟で取り組みたい。」まさにそれだろう。その状況において、クラブの経営面だけでなく、細貝と、ザスパをJに押し上げた功労者である佐藤強化部長が、群馬とザスパの歴史も感じながら、これからの未来を切り開くためのザスパの原点となるザスパスタイルのベースをどう構築するのか、非常に楽しみだ。
「理想を掲げるのは簡単だ。」という人がいるかもしれない。だけれども、掲げなければ、決して、良いものを作る事などできないし、現実問題、予算をはじめ、有限なものも多く、制限の方が多いはずだ。それでも、細貝萌、クラブの思い、情熱、そして、行動をしっかりと見たい。
細貝萌は、思いを語る。
「来シーズン、ザスパは、J3になる。この中で自分が、社長兼GMを引き受けることで、責任をもって赤堀さんとやりたいと思った。当然、周りからも大丈夫かと言われることもあると思うが自信をもって進んで行きたい。チームがいい方向に迎える様、お互いがリスペクトして、前進していきたい。」
プロサッカー選手としては引退をしたが、ひとりのプロフェッショナルとして、愛する群馬、思いのあるザスパというクラブで、覚悟と責任を持って戦おうというものは何も変わっていないのだ。
我々が愛し、応援した細貝萌は、役割こそ変われど、プロとして戦い続けている。ならば、私たちも、変わらずにともに歩み、応援し続ける以外に他に答えなどあるのだろうか?
さぁ、細貝萌と共に戦う2025シーズンの、そして、これからの群馬と、ザスパの未来を掛けた勝負のはじまりだ。