決断は下された。
ザスパ群馬は、8日、成績不振を理由に、大槻毅監督との契約を双方合意のもと解除したと発表した。
2022年に監督として迎えられた大槻監督は、緻密な分析と選手たちに勇気を与えるモチベーターとしてチームを作り上げ、就任2年目の昨シーズン、シーズン最終盤までJ1昇格プレーオフ入りを争い、万年残留争いが定位置だったザスパをクラブ最高位の11位へと押し上げることに成功した。
3年目の今シーズンは、多くの主力が残り、新たな仲間を迎え、さらなる飛躍が期待された集大成ともいえるシーズンだったが、裏腹にリーグ戦14試合を戦い、わずか1勝。勝負を懸けた藤枝戦も逆転負け、そして、連戦で迎えた清水戦にも大敗し、その時を迎えることになった。
多くのザスパファミリーが、大槻さんとこの難局を乗り越えたいと思い、乗り越えてくれると信じたが、それは叶わなかった。
松本大樹強化本部長は、「成績を上げられなかった事、藤枝、清水の2試合の結果、そして、求心力を上げられなかった事も踏まえ、ジャッジした。」と説明した。7日の朝、松本強化本部長が、大槻監督に合い、対面で伝えた際には、ザスパの監督に誘ってくれた松本強化本部長に対し、「大樹、申し訳ない。」と謝罪の言葉があったという。
そして、新監督には、武藤覚ヘッドコーチを昇格させた。
松本強化本部長は、「私自身が、以前、大宮でやっていた時も、シーズン途中の監督交代は内部昇格だった。ザスパでも、2021年に奥野僚右監督から交代した時も、久藤清一ヘッドコーチにお願いしてきた。基本的には、その時のチームの良い所も、悪い所もわかっている人にお願いしたいというのがある。武藤監督は、監督初経験になるが、代表を含め、いろいろな監督の元で経験してきているのでお願いした。」と説明した。
その上で、武藤監督への期待を聞くと、「ヘッドコーチの時から選手に近く、コミュニケーションが取れる人物。大槻監督ほど、言葉でモチベーションを上げるタイプではないが、論理的にできるし、代表でもやってきている。やろうとするサッカーを、選手に落とし込みや易いのではないか。システムも、フォーメーションも、やり方も含め、今日の練習を観ていても、変化は感じたので期待したい。」と話す。
そんな武藤監督の下、この日、ザスパは新たなスタートを切った。初練習は、突如降り出した激しい雨の中でのスタートになった。
成績低迷、監督交代、そして、大雨。気持ちが明るくなる要素などどこにもないように感じたが、練習に臨む選手たちの表情、様子、掛け声などは、明るさがあり、活発だった。それは、どこか吹っ切れたようにも感じた。
1時間半ほどの練習を終え、武藤監督の囲み取材が始まり、初日の練習雰囲気について聞くと、「どう見えましたか?」と逆に問われ、前述の様な感想を伝えた。
武藤監督は、「みんな、いっぱい喋ってくれたし、選手同士でコミュニケーション取っていたので良かった。選手たちが持っている素晴らしいものは絶対ある、修正して、できないことをプラスにする、持っているものをもっと出すことも、選手の中からも必要。そのための活気あるトレーニングができたと思う。」と振り返った。
いいリスタートは切れた様だ。だが、チーム立て直しに向け、道は険しい。すぐに次節・仙台戦もやってくる。とにかく時間は限られているのだ。
武藤監督は、チーム再生に向け、「持っているものはある、やってきたものもある。選手の事は知っているつもりなので、そこの良さを出したい。試合もすぐにやってくる、先を考えるより、1試合1試合、集中してやりたい。」と一戦必勝の構えだ。そして、「昨シーズン、勝ち点が取れている時にできたことが、今は出し切れていないだけなので、出せるようにしたい。選手の特徴を出せる様、組み合わせも考えたい。それに、選手から、もっと、もっとパワーを出せるようにしたい。」と話す。
これまで手にした成功、自信を取り戻し、再び結果へと繋げたい。そして、そのためにも、選手たち自らが、様々な面で発信していけるようにならなければいけないし、そうなる様、マネジメントしようとしている。
松本強化本部長も、「大まかなサッカー観は、私と大槻監督で変わらなかったし、大槻さんの下でやっていた武藤監督になっても、大きく変わらないと思う。もちろん、ボールを保持したいというのはあるが、話し合いの中で、勝ち点を掴むために現実的なサッカーも必要という認識で共通している。」と説明した。
大きな変化を期待する声もあるだろうが、時間も、状況も考えると、ベースがある中で、そこに修正を加えつつ、選手の良さ、特徴をいかに引き出せるか。そして、勝ち点につなげられるかという事になりそうだ。
しかし、現実は厳しい。残りは24試合しかない。残留圏17位鹿児島とは7ポイント差、ひとつ上、19位栃木とも6ポイント差が開いている。巻き返しは容易ではない。
ザスパは、監督交代とあわせ、目標も「勝ち点51、10位以上」から「J2残留」へと下方修正を余儀なくされている。
松本強化本部長は「目標の下方修正は避けたかったが、現実、残りは24試合。当初の目標は難しいので、J2残留を目標にした。残留に、勝ち点40が必要と考えると残りを9勝7分8敗(勝ち点34)くらいで行かないと難しい。」とターゲットを定めている。
ただ、この勝ち点勘定でさえ、今シーズンの状況を考えれば、楽な数字とは言い難い。だが、我々には進む以外、道は残されていない。勝利はもちろんだが、引き分けの勝ち点1を含め、とにかくライバルよりも勝ち点を積み上げていくしか、J2残留の道はない。最後の最後、最終節の試合終了のホイッスルが鳴った時、勝ち点を1ポイントでも、いや、得失点差1でいい、ライバルよりも上回り、J2残留を掴むのだ。
武藤監督は、サポーターへ、思いを口にする。
「選手を応援して欲しい。だが、勝ち点をとらないとサポーターの気持ちには応えられない。選手と共に頑張りたい。応援してもらえるように一生懸命頑張りたい。」と。
我々は、昨シーズン、大槻監督に夢を見させてもらい、それは叶うものだという事も教えてもらった。道半ばで大槻監督は退任することになったが、バトンはヘッドコーチだった武藤新監督に託され、再び、力強く歩みだそう、夢を実現させようとリスタートの一歩を踏み出したのだ。我々は、この難局に、監督を引き受けてくれた武藤監督を支えなければいけない。皆で戦い抜き、今シーズンのJ2残留は絶対に果たさなければならない。
そして、「J2残留」をする事。それはまた、2年4カ月ザスパに尽くしてくれた大槻前監督への感謝のしるしであり、『大槻ザスパ』が完結する時なのだから。