国内60あるJリーグクラブの中で、ザスパ群馬を選び、シーズンを戦う事を決断してくれた選手たちには、運命的なものを感じざるを得ない。だからこそ、良い時も、思うようにいかない時も、彼らを支える力になりたいと思う。そして、そんな中でも、新卒で、プロサッカー選手としての1歩目にザスパを選んでくれた選手には、さらにその思いを強くする。
昨シーズン、大卒ルーキーで加入した玉城大志、田頭亮太。厳しいシーズンを過ごしたチームにおいて、それぞれがもがき、苦しみながらも、ルーキーイヤーを駆け抜けた。
ふたりはともに、2023シーズン途中に、翌シーズンの加入内定が発表され、JFA・Jリーグ特別指定選手として登録された。
玉城大志は、当時の監督で、浦和ユース時代に指導を受けた大槻毅監督の元で、またサッカーがしたいという強い思いをもってザスパにやってきた。
特別指定選手としての出場はなかったが、ルーキーイヤーは4節・愛媛戦で途中出場し、Jリーグデビューを果たすと、5節・横浜FC戦では、初スタメンを掴んだ。その後は、メンバーに入ったり、入らなかったりを繰り返したが、リーグ戦のメンバー入りは、17節・秋田戦が最後だった。出場機会がつかめず、夏になり、J3鳥取に期限付き移籍し、鳥取では、5試合に出場。今季は、ザスパへ復帰となった。
鳥取での時間を振り返り、「プロになってから初めての移籍。新しい環境で、新しい土地で、新しい出会いがある中で、いろんなものを吸収してできたと思う。鳥取のサッカーは攻撃的で、戦術もあり、学ぶものもたくさんあった。例えば、ポジショニングで前にボールを運んだり、ワンタッチで関係性を持って剥がす部分では成長できたと思う。」と話す。
沖田優監督が目指すサッカーで言えば、鳥取での学び、成長は、まさに今年のザスパが表現したい部分でもある。玉城にとっても、今季の活躍へ向け、大きな支えになるだろう。
「ポジションは、色々な所をやっていくと思うが、自分の特徴である左足のキックだったり、攻守においてハードワークすることはどのポジションでも発揮したい。」
元々、しっかりとした持ち味、特徴を持っている選手だ。ポジションも、本職のボランチだけでなく、左SBもできる。沖田監督の元で、さらに幅を広げ、チャンスを掴み、試合出場を増やして、勝利のキープレイヤーになりたい。
戻ってきた玉城の変化で言えば、明るく、コミュニケーション能力が向上した事だ。もともとまじめな性格で、言葉数も少なかった。もちろん、初めての環境に緊張もあったかもしれない。しかし、今季の玉城を見ていると、明るい表情で、同世代の選手と楽しくコミュニケーションをとる姿が増えたように見える。
「鳥取では、テレビやラジオに出演する機会も多く、トーク力も上がったと思いますが、あんまり期待はしないでください。」とやや照れながら教えてくれた。
同期で、鳥取から加入した田中翔太とも仲が良く、高卒韓国人プレイヤーのキム・ジェヒの面倒もよく見ているようだ。鳥取では3カ月という時間だったが、サッカーだけでなく、人間力という部分でも、玉城には有益な時間だった。
主戦場の中盤、さらに同世代と、特徴のある選手が多く加入した。試合出場、レギュラー奪取は簡単ではない。
「鳥取から戻ってきて成長した姿を見せられるように、心機一転、覚悟をもって帰ってきました。」
それは、玉城もよくわかっている。彼の活躍を待ちわびているサポーターに、その思いを、ピッチの上に立ち、勝利に導くことで示してもらおう。
新チームが始動してから、田頭亮太の立ち振る舞に、昨シーズンとの違いを感じる。自分のプレーだけでなく、周囲に対しての声掛け、要求を通じ、もっと求めていこう、やっていこうという姿が、頼もしさとして伝わってくる。
「シーズン後、佐藤正美強化部長と面談した際に、『大学生の時は、ポジティブな声を掛けをして、チームを引っ張っていたけど、去年はちょっと自分を出し切れていないんじゃない?』と言われたんです。今年は、プロ2年目。1年目みたいに引っ張ってもらうだけじゃなく、チームを引っ張っていく存在になりたいから、そういう意味でも始動から意識してやっている。」とその理由を教えてくれた。
ザスパへの加入が内定した2023シーズン、田頭は、特別指定選手として試合に出場し、輝きを見せた。5月に追加登録され、大学との兼ね合いもあり、出場は、4試合と限られたが、右サイドを力強く駆け抜ける姿に、多くのサポーターが、今後の活躍を思い描いたに違いない。さらに、同ポジションのレギュラーだった岡本一真がJ2山形に移籍し、ルーキーイヤーの昨シーズンは、レギュラー奪取も期待されたが、開幕戦のメンバーに彼の名前はなかった。シーズンを通してみれば、21試合に出場、17節・秋田戦ではJ初ゴールを挙げるなどしたが、サポーターも、なにより、自身が、もっとできたという思いが強かったろう。
そんなプロ1年目を終え、2年目のはじまりは、これ以上ない充実の時間になっている。
「練習も、いい緊張感の中でやれている。自分はうまくなっている、成長を実感できる2週間で、今後もそうなると思っている。高いレベルでみんなが求め合えているし、シーズン通してやれば『常勝集団』になれると思う。沖田監督からも、『J1基準で求めていく』と言われ、練習中もその基準で求めている。コーチやスタッフも練習中、常に声を掛けてくれ、いい緊張感でやれている。ミスしても、苛立つことなく、『悔しいな』、『もっと上手くなれるんだ』という思いでやれている。」
ルーキーイヤーに感じた悔しさ、そこからくる2年目への強い思いもあるだろう。そこに、今シーズンの環境も、田頭にとっては追い風になっている。
「今は純粋にサッカーを楽しくやれている。大学生の時のような感覚に近い。且つ、高い強度、要求のもとでやれている。自分にとっては成長しかない。」「沖田監督やコーチ陣も、トライした事に関しては、ミスが起きても、評価してくれる。むしろ、トライしない方が評価されない。だから、とてもチャレンジしやすい状況で、今は、みんなが楽しいと思う。」
田頭自身が忘れかけていた感覚、そして、常に成長を求め、チャレンジし続けていたあの時の感覚が戻ってきた。
「今シーズンは期待していてください。」
頼もしい表情で決意を口にする田頭から、充実感、そして、今季にかける思いが十二分に伝わる。2年前、田頭が初めてザスパにやってきて、私たちに与えてくれたインパクト、そして、未来への大きな期待。その姿を今シーズンは見る事ができそうだ。
2025シーズン。ふたりにとっては、同世代、近い年代の選手たちが多く加入した。埋没するわけにはいかない、輝きを放ち、チームを牽引し、J3優勝、J2復帰への先頭に立つ存在にならなければならない。それぞれにルーキーイヤーは、悔しい思いをした。それだけに、大卒2年目の今シーズンは、今後のキャリアを占うと言っても過言ではない大事な1年なのだ。
過去を振り返れば、ザスパの大卒ルーキーたちも様々な時間を過ごしている。1年目で結果を出し、J1へ羽ばたいた者、思うようにいかないルーキーイヤーの悔しさをバネに、2年目以降、チームを支え、大きな評価を手にした者、そして、努力を重ねても、思うような結果をに繋がらず、移籍やユニフォームを脱ぐことになった者など様々だ。
玉城大志、田頭亮太。それぞれに強い思いをもって挑むプロ2年目のシーズンが、まもなく開幕する。