年間3勝、リーグ最下位で、クラブ2度目のJ3降格となった昨シーズン。ザスパに関わる誰もが失意のどん底に沈んだ。その中でも、ケガをはじめ、様々な理由でピッチに立てなかったり、持てる力を発揮できなかったりと、苦しむチームを助けられず、涙を流すサポーターを笑顔にできず、もどかしく、悔しい思いをした選手たちも少なくなかった。彼らは誓う、今度こそ、自分の力を示し、サポーターに勝利を届け、ザスパをJ2に戻す存在になるのだと。
「楽しいですね!毎日、楽しくサッカーができて幸せです!」
笑顔全開の明るい表情で始動からの様子を教えてくれたのはザスパ2年目を迎える船橋勇真だ。
YS横浜、長野とJ3で4シーズンを過ごし、結果を出した船橋は、昨シーズン、ザスパに加入し、初めてJ2にチャレンジするはずだった。しかし、シーズン開幕前にケガをし、回復にも時間を要した。終盤には全体練習にも戻ったが、1試合も出場することなくシーズンを終えることになった。
「今年は仕上げてきました。試合に出られて、サッカーができれば、僕としてはどこで出場してもOK。楽しんでやっているし、与えられた所で、必要とされた事を全力でやるというタイプなので。」と、笑顔から一転、目力が強くなり、今シーズンへの思いを語ってくれた。
沖田優監督は、始動から各選手を様々なポジションで起用し、各選手の適性を見極めている。船橋も、同様だ。そして、そのポジションで、ファイターらしく、強く、激しく、頼もしさを感じるプレーを続けている。
「今のポジションにはやりがいを感じている。相手の攻撃選手を潰したいという監督のイメージを持った采配の中で自分の良さをしっかりと出していきたい。練習試合でも、相手FWに触らせないくらいの守備が出せれば監督の求めるイメージに少しでも近づけるんじゃないかと思う。そういう所は日々意識しているし、苦手だった技術面や駆け引きも楽しみながら成長できればと思っている。ある意味、今年はターニングポイントなのかなと思っている。」
大卒6年目のシーズンになる。キャリアとしても、足踏みはしていられない。そして、自分の力を示すとともに、チームを引っ張る役割も求められる。
「気が付けば、先輩は5人だけ、ベテラン枠になってしまいました(笑)でも、先輩たちが違う形で引っ張ってくれる中で、自分が率先してやっていけるとしたら、誰よりも明るく、楽しくやる事で、みんなで、楽しくできる雰囲気を作っていきたい。グラウンドで、最大限の力、100%の力を発揮する事を開幕までに全員が求めていければ、開幕から良いスタートが切れると思う。」
心優しき、笑顔のファイターは、新シーズンに向け、強い思い、覚悟をもって、仲間とともに挑んでいく。
20代を中心に、大きく若返りを見せた中で、大卒プロ11年目のシーズンを迎える河田篤秀は、経験豊かな30代プレイヤーのひとりとして新シーズンを迎える。
昨シーズンは、攻撃力、得点力に苦しむザスパを救うため、7月にJ1鳥栖から完全移籍で加入した。14試合に出場するなど、機会は多かったが、ゴールをあげる事はできなかった。チームとして、ボールが前に運べず、チャンスのカタチで、河田にボールが入ることが少なかったとはいえ、FWである以上、納得できるものではない。悔しさを味わった河田も、巻き返しを誓うひとりだ。
「自分が、同じようなポジションで出る選手より、良い選手だという所を見せたい。去年はそれが全くできなかった。」
昨シーズンは、前線で相手選手を背負い、ゴールを後ろにした状況で、何とかボールを保持しよう、起点になろうと腐心する姿が多かったが、今年は違う。練習を見ていても、前向きな状態でボールに関わり、ゴールに迫る、そして、決定的な仕事に関わっていく、本来の河田の姿を見る事ができている。
そんな沖田監督が掲げる、超・攻撃的サッカーは、攻撃の選手としても望むところだ。だが、それが簡単ではないことも十分に分かっている。
「求められている事はレベルが高い。まだまだ足りない所を自分に厳しく、基準を落とさずやりたい。それがやれれば楽しいが、やるためには、個人、個人の所で努力が必要だし、しっかり実現できるように頑張りたい。超攻撃的サッカーを実現するために、対峙した相手には、確実に上回らないといけない。1対1で絶対負けないためにはレベル高くやらないといけない。」
我々が目指すサッカーは、理想が高く、表現できれば、やる側も、見る側も、この上なく楽しいサッカーだ。だが、そこには難しさがある、常に、右肩上がりでレベルアップしていくことはできない。苦しく、厳しい時間もあるだろう、そうした時に、河田の様な経験豊富な選手ならば、乗り越えるために必要な事を心得ている、我慢して、耐え忍んだ先に、また大きなものを掴めることも知っている。そして、自身がゴールという結果を出すことで、その説得力も、より重みを持ち、チームに素晴らしい影響を与えてくれるだろう。
「誰が見ても、河田が出ればいいなと思うような評価をもらえるようなプレーを目指している。」
やはりストライカーはゴールこそが全てなのだ。かつて、ライバルチームのストライカーとして、我々は河田に苦しめられてきた。まだ、ザスパ群馬の河田篤秀としてのゴールを見ていない。超・攻撃的サッカーを象徴する活躍で、たくさんのゴールと勝利を今シーズンは見せてもらいたい。
「試合に出て自分の価値を証明したいという思いがシーズン初めからある。」
強い気持ちをもって新シーズンのスタートを切った近藤壱成は、仲のいいある選手の活躍に刺激を受けていた。
それは、昨シーズン、J2千葉で23得点を挙げ、J2得点王となり、ベルギー・シント=トロイデンに移籍した小森飛絢の事だ。
出身や高校、大学は違ったが、1年時からともに選抜チームに選ばれるなどして、大学4年間を通じ、交流が深まり、2023年、ともにJ2千葉入りし、プロ生活をスタートした。寮生活でも同部屋で、仲良しの間柄だ。小森は1年目から13ゴールを挙げ活躍。近藤も、飛躍を誓い、1年で移籍を決断、ザスパに完全移籍でやってきた。守護神・櫛引政敏を脅かす存在として期待されたが、リーグ戦、カップ戦ともに出場機会を掴めなかった。
「試合に出る思いを持ってきたが、なかなか試合に絡めず、悔しい思いした。自分の結果も良くなかった中で、今シーズンは自分が試合に出て勝たせるという思いしかない。」と覚悟を口にする。
超・攻撃的サッカーは、GKにも大きな役割が求められ、とてつもないプレッシャーと負担ものしかかるポジションになる。ただ、役割、責任は増すが、より自分の特徴を活かせるサッカーだと感じている。
「沖田監督になり、やるサッカーが凄く変わった。GKも、より足元を求められている。その部分は、もともと自分も自信がある所なので、もっと武器にしていきたいと思っていた所だ。そこを伸ばしたい。」
意欲もあり、自らのスタイルにマッチするサッカーだ。近藤は、ここまでの試合形式のトレーニングでも、心身ともにしっかりと出し切りながら充実の時間を過ごしている。
「やっぱり、役割も多いし、考えることも多いので、身体も、思考の部分も、すごく疲れます。練習試合の日の夜は、良い疲労感で、ぐっすりでした(笑)」と教えてくれた。
超・攻撃的サッカーの中で、GKがどうかかわるのかというのはもちろん楽しみだが、やはり、最後の砦でもある。近藤は、その部分にも強いこだわりを持っている。
「超・攻撃的な中で、相手選手が、GKと1対1になる事もあると思う。そうした中で自分の所で守れるか、ゴールを守れるかが自分の本質だと思うのでそこを突き詰めたい。」
友人である小森は、海を越え、新たな舞台でスタートを切った。近藤は、そんな友の姿に、純粋に刺激を受け、プロ入りして2シーズン味わった悔しさを晴らしたい思いでいっぱいだ。自分の目指すもの、やるべきことをひとつひとつ超えていく。それこそが、自分のために、応援してくれるみんなのためになる。そして、友へのいい報告になるのだから。
「これまでも連絡は取っていたけど、まさか一緒にやるとは思っていなかったです。」
藤村怜の2025シーズンは、ユース時代からの恩師である沖田監督のもとでの戦いになる。
北海道出身の藤村は、札幌ユースからトップ昇格、地元のクラブでプロキャリアをスタートさせた。途中、期限付き移籍でプレーしたJ2山形時代も含め、リーグ戦でなかなかチャンスをつかめずにいたが、2023シーズンにJ3岩手で38試合、2得点と活躍し、昨シーズンザスパに加入した。中盤のキープレイヤーとして活躍が期待されたが、シーズン序盤にケガをし、復帰後も、チャンスをつかめず、カップ戦での1試合の出場のみという厳しいシーズンになった。
「新シーズンになり、新しいサッカーにみんなで前向きに臨めている感じ。自分は、去年、全然試合に出ていないので、今年はチームに貢献できればという思いは強い。」と落ち着いた語り口の中に、闘志を燃やしている。
何より、沖田監督への思いは強い。
「沖さんは、札幌時代からずっとなので4年くらいかな、ユースからだと5年くらい。自分は、沖さんに育てられたので感謝の気持ちを良いプレーで表現したいし、沖さんの力になりたいという気持ちが強い。」
藤村は、親しみを込めて沖田監督を「沖さん」と呼ぶ。始動からここまでの藤村の様子を見ていても、昨シーズン以上に、イキイキとした姿で、キレのあるプレーを続けている。超・攻撃的サッカーの肝である、「操る」ことは、藤村にとって得意とするところだし、「沖さん」の事は誰よりもわかっている。
「練習の内容も大体わかるし、ここから、どう上手く自分を表現していくかが大事。中心的な役割を担えればと思う。」
藤村にとって心強いのは、沖田監督だけではない。もうひとり、J3八戸から加入した山内陸の存在だ。
「陸は、札幌時代に練習参加でよく来ていたので顔見知りだし、自分には2歳下の弟がいるんですが、高校が一緒で、仲がいいので縁があるんです。」と、その強い関係性を教えてくれた。
ピッチ内外でも、行動を共にすることが多く、インタビュー中も、山内が、「怜くんが可愛がってくれています。」と入ってくるなど、本当の兄弟の様に仲良しな所を見せてくれた。藤村、山内、ふたりがピッチ上でどんな連携を見せてくれるか楽しみだ。
今、誰よりも沖田スタイルを表現できるのは藤村怜だろう。恩師のために力を出し切ることは、ザスパの掲げる超・攻撃的サッカーをさらに加速させ、多くのゴールと勝利をサポーターに届けることになる。
「今年は、道産子魂でやりますよ」
北海道・札幌に縁がある沖田優、山内陸、そして、藤村怜。群馬で再び繋がった3人が、ザスパをJ3優勝に、1年でのJ2復帰に導くために大きな役割を担ってくれる事だろう。
開幕まで1ヶ月を切った。4人だけではない。それぞれに感じた昨シーズンの悔しさ、そして、今シーズンに懸ける思いを大きなエネルギーに、自らの力を示し、ゴールと、勝利の中心となるべく戦いの舞台へと向かっていく。