チームスポーツにおいて、個々、明確な役割があり、それを遂行することはもちろん大切なことだが、一方で、様々な役回りを担え、どんな時でもチームのために頑張れる選手の存在はとても大きい。今シーズンの群馬銀行グリーンウイングスで言えば、小林知加が、まさにその存在を担ってくれている。
茨城・水戸女子高校から加入した昨シーズンは、シーズンが進むにつれてリリーフサーバーとして起用されることが多くなり、存在感を見せた。高校時代は、サーブが得意というわけではなかったそうだが、グリーンウイングスに入り、コツを掴んで、練習を積み、向上したという。
2シーズン目を迎える今シーズン。小林は、リリーフサーバーだけではなく、様々な役割を担っている。167センチと上背はないが、アウトサイドヒッターとして、ライト、レフト関係なく、気持ちを乗せたスパイクで得点も重ねていく。さらには、持ち前のガッツあふれるプレーで、最後まで諦めずボールを拾いに行く、守備面での貢献度も高い。さらに、今シーズンは、リベロ登録で出場した試合もあった。スタートでも、途中出場でも関係なく、託された役割を全うしてくれている。
小林は、「自分がコートに入ることで、良い流れを持ってくる、例え、後ろの3ローテ(バックローテーション)でも流れを持ってきたいし、勝ちにつなげたい。チームに流れを持ってくる選手になりたい。もちろん、スタートからとなれば1本目から思い切ったスパイクとか、ガッツあるプレーでチームに流れを持ってきたい。」と、チームのために、自らがやるべきことを明確にしてゲームに臨んでいる。
特に、今シーズンのグリーンウイングスは、メンバーが固定されず、毎試合、様々な選手がスタメンに立ち、起用される。そうしたチームの戦いを考えても、これだけユーティリティーにプレーできる小林の存在は大きい。
小林は、「もちろん自分がコートに立ちたいという思いはあるが、誰が出てもいいバレーができて、自分たちらしいバレーができるのが今のチームの強みだし、このメンバーだからできる事なので、コートに立っていてもいなくても、その時、その時で役割があるので、その自分の役割を全うすることを大事にやっている。」と話す。今シーズンのチームだからこそできるバレーに手ごたえを感じながら、どんな時でも、いかなる状況でも、チームや仲間のために何ができるかを最優先にプレーしている。
小林のプレーで印象的なのは、今シーズンのサマーリーグでのワンシーンだ。
難しいボールに対し、諦めず拾いに行ったが、その際、コートに顔を打ち付けた。口の中を裂傷し、流血する事態となるが、本人は頑なに「大丈夫です!大丈夫です!」と言い張り、コートへ戻ろうとする。何とかスタッフが止め、治療を受けたが、彼女の悔しさあふれる姿が忘れられない。本人にしてみれば、純粋に、もっとプレーしていたいという思い、できないことで自らに託された役割を全うできない悔しさ、それが、チームに迷惑をかけてしまうと思う責任感。様々なものが入り混じっての事だったと推察する。
そんなプレーに象徴されるように、自らの特徴を聞くと、「ディフェンス力が強みだと思ってやっている。ボールが落ちるまで食らいつくこと。」と話す。さらに、今シーズンは、役割が守備だけでなく、攻撃にも及ぶ中で、「二枚替えだったり、ライトやレフトの役があり、オフェンスを強化したい、高さがないので、高いブロックと、どう勝負するかを着目してやっている。どう打つか、打つ前にどう考えるかを意識してやっている。」と、ひとつひとつ、チームのために課題に向き合いつつ、自らの成長にもつながる取り組みを続けている。
そして、「大事にしているのは、『自分らしいプレーをする』というのを目標にしている。それは、思いっきりプレーする事です。」と教えてくれた。技術的には細かい部分もあるのだろうが、小林が意識することは、チームのために、自分らしくという、とてもシンプルな事なのだ。
今シーズンのグリーンウイングスは、小林だけでなく、高卒同期の清水愛、そして、1学年上の藤原愛、さらには、高卒ルーキーの正木七海と、高卒1年目から3年目の選手たちのひたむきな姿が印象的なシーズンでもある。まだまだ成長途中だが、彼女たちがこのタフなシーズンを戦い抜きながら、さらにたくましく、チームの力になれるかどうかが、V2優勝、V1昇格への鍵ともいえるだろう。
そんな後半戦に向けて小林は、「簡単な戦いではないので、全員バレーで戦わないといけない。V1昇格という目標はあるが、そこにたどり着くためには、ひとつひとつ、勝ちを積み重ねないといけない。ただ、勝ちを意識しすぎて、目の前のやることをおろそかにしては、自分たちのバレーができなくなる。勝ちにはこだわるが、目の前の1球、1点にこだわってグリーンウイングスの良さを出したバレーをしていきたい。」と気負うことなく、冷静に向き合っている。
年が明ければ、前橋でのホーム2連戦からリーグは再開する。そんなホームゲームを小林も待ち望んでいる。
「(前回の伊勢崎大会で)去年に比べて、来てくださる方が多くて、たくさんの人に応援してもらえているんだなのというのを実感できた。恩返しするには結果しかない。そのためにも応援を力に変えてやっていきたい。」と意気込んでいる。
若手は伸び伸びやればいい。失敗を恐れず、前向きに、それが自信になり、力となって、チームに勢いをもたらす存在になるのだ。年明けのホームゲームでは、小林知加をはじめ、彼女たちの背中を推して欲しい。そして勝利を届けてもらおう。