今シーズン、群馬銀行グリーンウイングスの戦いで特徴的なのが、スタートメンバーが固定されていないという事だ。
バレーに限らず、どの競技でも、ある程度、スタートメンバーは固定されることの方が多い。メンバーを固定することで、チームのやりたい戦い方を一貫して表現しやすくなるし、バレーの様な、「つなぐ」という連携が必要な競技においては、メンバーが固定されることで、その連携がより高まり、個人、チームの力をより発揮し、勝利への確立がグッと高まることが期待される。だが、グリーンウイングスの開幕4試合を見る限りそうではない。
田中瑠奈は、「全員でやるというのはこれまでと変わらないが、スタートメンバーは固定ではない。」と話し、白岩蘭奈も、「その日のコンディション、相手チームに合わせて変えていくというのは言われていた。だから、起用についてはみんな理解できていると思う。」と今シーズンの戦い方を説明する。
メンバーを固定することにメリットもあるが、固定しない、今シーズンのグリーンウイングスの戦い方に、選手たちもいくつかのメリットを感じている。そのひとつが、心身への負担の軽減だ。
白岩は、「(スタメンを固定しないことに)開幕するまでは戸惑いがあったが、開幕してみると、いい意味で楽な気持ちでやれるというのがある、『全部が自分じゃなくてもいいんだな』と思えるようになった。もちろん、体力的な負担も全然違う。ありがたいなと感じている。」と話すなど、心身への負担が軽くなったことがプラスにつながっていると考えている。
また、田中も、「コンディション面では疲労をため込まず次の試合に向かえる。また、コートの外に立った時に仲間がどういう状態かというのを昨シーズンよりも見ることができている。」と話すなど、自身への事だけでなく、チーム全体を見る余裕も生まれているようだ。
田中も、白岩も、V2で個人タイトルを獲得してきた実力者だ。チームにとって欠かせない存在のふたりは、これまでは、エースとしてコートに立ち続ける事で役割を果たしてきたが、その代償として誰よりも、身体的、精神的な負担を受けながらプレーを続けてきた。シーズンが進み、疲労や相手チームの対策などでパフォーマンスが落ちれば、結果が出ず、本人も、チームも悪循環に陥ってしまうだろう。ただ、このやり方であれば、そうした部分の負担はだいぶ軽減されそうだ。
実際、先日のGSS東京戦では、スタートメンバーだった白岩が、終盤、第4セットで疲労から、パフォーマンスを落とし、田中と交代した。変わって入った田中は、流れを失わないプレーで、チームの勝利に貢献したのだ。もちろん、こうしたことは、選手に一定以上の力がなければ成立しないし、いわゆる、選手層の厚さ、そして、チームとしての総合力が求められる。
とはいえ、やはり、出続けない事の難しさもある。
田中は、「出続けている時は、ミスをしても、次に切り替えればというのもあったが、この前の試合、初めてリリーフサーバーで出場して、これまでとは違う緊張があった。使ってもらった時に、活躍できればいいが、『上手くいかなかったら、、、』というマイナス面も感じた。ひとつのプレーに精度を求めていかなければいけない大切さを感じた。」とその難しさを教えてくれた。
そして、白岩も、「スタメンが決まっていない分、みんなが活躍できるが、その日の自分の役割が試合ごとに変わる。私自身、シーズン通して、一瞬で、良いパフォーマンスを出すというのは欠けていたと思うので、そこを伸ばして、どういう時でもパフォーマンスを出せるようにしたい。」と話す。
求められる様々な役割に対する柔軟性、対応力も必要だし、大事な場面で、これまで以上に、ワンプレーに集中し、レベルや質の高いプレーを発揮することが求められるなど、想像以上にタフで、難しい事なのだ。
ただ、起用機会が増えるという事は、これまで出場機会の少なかった選手やキャリアの浅い選手たちの刺激にもなるだろう。
これまでリーグ戦ではリリーフサーバーでの起用が多かった藤原愛も、セッターでの起用が増えたし、同じように、リリーフサーバーの切り札的存在でもあった小林知加は、千葉戦ではリベロで出場したかと思えば、GSS東京戦では、終盤、OHとしてコートに立ち続け、高いパフォーマンスを発揮するなど、マルチに、しかも、質の高いプレーで起用に応えてくれた。選手たちにとっても、試合に出られる、チームの力になれるという高いモチベーションにもつながるはずだ。
シーズンはまだ序盤、ここからは、リーグの優勝候補とされるチームとの対戦も続いてくる。
白岩は、「今は、土曜に出た課題を、翌日の試合に修正するというのが、どのメンバーでもでき、チーム全体としてできているが、上位チームとの対戦が始まる中で、よりチーム全体として団結が必要になる。ひとりひとりの良さを出し切らないといけない、与えられた役割をやり切ることでチーム一丸となって戦いたい。」と気を引き締める。
そして、田中は、「誰が出ても、いい結果で勝てているのはチームの持ち味だし、選手自身も、自信にしていっていい所だと思う。更に個人の良さを出していきたい。」と、この流れをチーム、個人の成長、結果につなげようと前向きだ。
開幕4連勝という結果は出たが、V2優勝、そして、悲願のV1昇格へは道半ばだ。チームとしての一体感をより高め、気持ちを緩めることなく、さらに成長しなければならない。