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SASAnote Vol.4 サッカーの楽しさを味わえた1年~エースストライカー・大前元紀

「個人としては充実していたし、サッカーの楽しさを味わえた1年だった。もっとサッカーやりたいなと思わせてくれたチームだった。」

ホーム最終戦を終えた翌日、ザスパクサツ群馬の大前元紀は、この1年をこう振り返った。

大宮時代の強化部長だった松本大樹強化本部長との縁もありザスパにやってきたが、その決断には、今後の自身のサッカー人生をより良いものにしたいという強い思いもあってのものだった。

才能あふれるプレーへの期待、他方、前年の不振からどこまでやってくれるのかという不安。サポーターにも様々な思いがあったろうが、試合を重ねるごとに持ち味を見せ、存在感を増していった大前の活躍は、サポーターの期待以上ではなかっただろうか。そして、なにより、彼自身にとっても、サッカーの楽しさを再認識できた1年だったのだ。

大前は、全国高校サッカー選手権での得点王をはじめ、高校時代から活躍、注目されたストライカーで、プロ入り後も、その才能豊かなプレーで所属クラブのサポーターを魅了してきた。J1ではチームの中心としてゴールを重ね、J2でも18年に大宮で得点王に輝いた。だが、19年は、先発14試合、5得点と結果を残せず、契約満了となった。

大前の移籍先が注目される中、「最初に声を掛けてくれた」という松本強化本部長の誘いを受け、ザスパへやってきた。

J1経験もなく、J2復帰を果たしたばかりのザスパは、これまで彼が所属してきたクラブとは比較にならない規模の小さなクラブだ。加入当時、本人は、大宮時代に果たせなかった松本強化本部長への恩返しへの思いも延べつつ、「もちろん難しい戦いになると思うけど、そこで自分の力が、どのくらいこのチームに還元できるかという楽しみがある。いい方向に向かえば、自分のサッカー人生も、いい方向に向かうんじゃないかと思った時、ザスパでやりたいと思うようになった。」と、自身の今後のサッカー人生も含めたチャレンジであることを口にしていた。

リーグ開幕、そして、再開直後は、なかなか大前らしさがピッチで表現されなかったが、コンディションが上向き、チームの戦い方が徹底され始めると、ゴールも増え、運動量も増し、個で相手をいなしたり、精度の高いラストパス、中盤へ降りてボールを受けるプレー、ゴール前やサイドで連携しチャンスを生み出すプレーなど、ザスパの攻撃の核として他者との違いや存在感を見せ始めるようになった。

練習場では、若手選手への声掛けやアドバイスを送り、時に他のポジションの若手選手にも声をかける姿があった。決して、口数が多いタイプではないが、チームのため、勝利のために、自らの経験、感じたことを惜しみなく伝えてくれる姿は印象的だった。

ピッチに戻れば、大前の活躍、チームの成長もあり、9月、10月と、徐々に内容、結果が良くなってきたものの、11月に6試合勝ちなしと苦しんだ。それでも大前は、「内容は悪くない。あとちょっとの所だ。」と、しっかりと前を向いていた。そして、自らのプレーやゴールでチームを牽引し、12月の好成績へとつなげる頼もしさを見せてくれた。

41節を終えて、34試合8得点。大前の実績からすれば当然の結果なのかもしれないが、前年の結果、そして、ザスパへ移籍してきた中での大きな期待、プレッシャーもあったと思う。それでも、開幕前に話していた、「僕がここに来た意味は、ゴールを求められてきたと思うし、ゴールを取ってきたからこそ、こういうオファーをいただいたと思うので、それに恥じないプレーをしないといけない。」という思いを有言実行してくれたのではないだろうか。

そんな大前が、「簡単なチャレンジ、挑戦でないのはわかっている。」と覚悟を持ってスタートした今シーズンも、あと1試合だ。チームにとって、最終戦の京都戦では、J2が22チーム制になってからチームの最多勝利数更新(14年14勝)、最多勝ち点(14年勝ち点49)に並ぶ可能性がある試合でもある。大前は、「監督も記録について話していたが、僕らも、チーム目標(勝ち点50、16位以内)は達成できなかったが、記録がかかっているのを意識しながらやればいいんじゃないかと思う。」と、落ち着いた口調だが、しっかりと語ってくれた。

充実したシーズンを過ごし、サッカーの楽しさを再認識したシーズンを過ごしたという大前元紀が、今季最終戦、どんなプレーでチームを引っ張り、そして、どんなゴールで勝利を届けてくれるのか。現地で、群馬から、今シーズン最高の手拍子、応援で後押ししようではないか。

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