日本最高峰にして、世界最高峰を目指すバレーボールリーグ、大同生命SVリーグが開幕する。初めてのトップカテゴリーでの戦いが始まるグリーンウイングスにとって、歴史的な一歩を踏み出すことを託された選手たちは、それぞれに思いをもって、その舞台に立とうとしている。
「やっと始まるという気持ちと、もう始まるのかという不安で、気持ちが入り混じり複雑だが、長くバレーをやってきて、このSVリーグの舞台に立てるというのはとても貴重な機会だ。」
2021-22シーズンにKUROBEアクアフェアリーズでプレーして以来、3シーズンぶりにトップカテゴリーに戻る道下ひなのは、開幕を待ち遠しくしている。
開幕へ向け、チームは、SVリーグのクラブと対外試合を行いながら強化をしてきたが、道下はそうした機会を通じて、「戻ったなという感じ。ああ、懐かしいなって。相手選手の個の高さとパワーは、なかなか体験できない領域。相手コートには、当たり前の様に、日本代表や外国人選手がいる。それを久々に感じた。こういうレベルできるというのがありがたい。」と久々の感覚をかみしめている。
縁があり、このチームを強くしたいという思いでグリーンウイングスにやってきた。V1でもチームの中心選手として活躍して道下がコートに立てば、さすがと思わせる存在感を示した。ただ、昨シーズンは、出場機会も限られ、プレー面でも思うようにいかず苦しんだ。
「昨シーズンは、これまでのバレー人生の中で一番辛かった。ケガやメンタルなど、いろんな部分で、自分と向き合いたかったが、受け入れられなくて挫折したシーズンだった。」と振り返る。ただ、「今は、そうした挫折を乗り越えた気持ちでいる。そういう自分がいたからこそ、今年、頑張ることができている。」と完全復活への手ごたえを口にする。
タフな戦いが予想される今シーズン、道下は自分の役割をどう考えているのか。
「常にコートに立つことが全てではなく、どんな場面でも、自分がコートに立てば何かしてくれるという安心感や、短い時間でも結果を出せるという所で力を出したい。去年は、それが出せなかった。安定感や細かいプレー、数字に表れない部分でみんなを支えられる自信があるので、ミドルのポジションで、支えられたらと思う。」とチームのために力を尽くす思いだ。
斎藤真由美監督3シーズン目の今シーズンも、ミドルは最重要ポジションだ。
「ミドルの重要性は理解している。それはプレッシャーだが、自分がどれだけ決められるかが全てで、それだけ、大切なポジションだのと言われるのは、すごくありがたいし、期待されている事なので、その期待に応えたい。その気持ちは、私だけじゃなく、ミドルブロッカーの選手全員が持っていると思うので、ひとりひとりが力を発揮できたらいいと思う。」と力を込める。
多くの選手が、SVリーグの戦いへ、期待とともに、未知なる戦い故に不安を口にする。そうした時に、道下の様な、トップカテゴリーの戦いを知る選手が、同チームを導けるかは今シーズンのグリーンウイングスにとって大きなカギになるだろう。開幕戦の相手、アステモ・リヴァーレ茨城は、これまでにも対戦経験がある。
「大事なのは、相手の高さやパワーの圧倒されない事。私は見たことがあって、対戦したことがあるので、なんとなく予想が付くが、グリーンウイングスには初めての選手が多く、緊張するだろし、不安もあると思う。そんな時に、トップカテゴリーの舞台を経験した選手たちが、周りを盛り上げられるか、この舞台に立った意味を感じてやれるのか、勇気を持てるのかが大事だと思う。プレーはもちろん、声掛け、姿など、様々な部分で見せられるようにしたい。まずは、自分たちがやってきたことを1点でも多く出したい。」と、自らが果たすべき役割を教えてくれた。
久々のトップリーグでの戦いに迷いはない。道下ひなのの覚悟は決まっている。そして、そんな彼女の躍動する姿を周りも楽しみにしている。
「実は、私よりも北海道にいる両親が楽しみにしていて、観戦のための旅行計画を立てているんです。他にもSVリーグでの戦いを楽しみにしてくれている人が多い、だから、私も楽しみます!」と話す。
未知なる戦いではあるが、道下の活躍があれば、より多くのグリーンウイングスファンを笑顔にしてくれるだろう。
高卒ルーキーで、グリーンウイングスに加入した当時、清水愛は、Vリーグに対し、特別強い思いをもっていたわけではなかった。せっかくの機会、周囲の勧めもあり、この世界に飛び込んでみよう。そう言ったものだった。だが、4年目を迎える今シーズン、SVリーグに挑むにあたり、その思いは大きく変わった。
「グリーンウイングスに入った頃は、そこまで意識していなかったが、試合をして、入れ替え戦を経験して、上のカテゴリーでやりたい気持ちはどんどん強くなっていった。今回は機会をいただけて嬉しく思う。自分たちが一番上のカテゴリーで戦うことになって、未知の部分がものすごく大きく、不安もあるが、自分たちがどのくらいやれるのか、やってきたことを出せるのかという楽しみがある。」と心境の変化、そして、SVリーグへの思いを教えてくれた。
グリーンウイングスに来てから、シーズンを追うごとに、試合出場が増え、昨シーズンは、まさにチームの中心であり、顔としてコートに立ち続けた。
「ここ2シーズン、試合には出させてもらえたがコートにいるだけみたいなこともあり、自分の役割が全うできない時があった。調子の良し悪しはあるが、最低ラインもできない時もあった。今年は、そうした事ができるようになりたいし、例えば、クイックが上手くいかなくても、ブロックで貢献するという様な気持ちの切り替えも積極的にやりたい。」と現状に満足することなく、更なる成長を誓う。
清水は、年齢こそチーム内でも下の方だが、現状を冷静に分析しつつ、さらに強くなろうとする強い気持ちも兼ね備えている選手だ。
「相手からすれば、グリーンウイングスは、一番下のチーム。自分たちが挑戦者なのは変わらないので、全力でやらなければいけない。上手くいく時ばかりではないので、悪くなった時に、次、次と切り替えたいと思う。どんなに頑張っても後悔は出てしまうが、できるだけ少なくして、自分のやりたいことを表現できるシーズンにしたい。」と、今シーズン、やるべきことを教えてくれた。
試合に出て、シーズンを重ね、チームの事も考えられるようになってきた。そんな清水が感じる、グリーンウイングスがいい状態とは、「自分たちが楽しんでいる時」だという。
「自分たちが楽しんでいる時が、このチームの一番強い時だと思っている。楽しいというのは、上手く回っている証拠だ。また、厳しい状況の中でも、1点取れたら全力で喜ぶ、それが上手くいくきっかけにもなる。それは、信頼し合えているし、気持ちがひとつになっている証拠だと思う。」と話す。
良い時はもちろん、難しい時もあるだろう。そんな時でも楽しんでいるかどうか、チームコンディションを見極めるバロメータになりそうだ。
グリーンウイングスにやってきたあの頃と比べ、プレーも、意識も、責任感も、大きく成長した。そして、しっかりと自分の思いを言葉にできる様にもなった。
「4年目で、年齢的にいったらまだ下だけど、試合数は多くいただけるようになった。今年は、外国人選手も多くなった、自分が成長しないといけない。」
試合に出るためには、対戦相手だけでなく、チーム内競争もより激しくなる。清水は、これまで同様、果敢に挑んでいく思いだ。果たして、未知なる舞台、SVリーグは、清水愛をどう成長させてくれるのか、楽しみだ。
「SVリーグは、誰も知らない領域。自分たちがやってきたことが、どこまでできるか楽しみだけど、リーグ戦は44試合ある。不安な気持ちもあって、でも、今はとにかく必死に毎日やっている。」
見えない事、分からないことが多い。試合数は、昨シーズンの18試合から倍以上の44試合に増える。不安があって当然だ。その中でも、松尾奈津子は、目指してきたトップカテゴリーの戦いに向け、これまで同様、ひた向きに準備を進めている。
松尾は、グリーンウイングスに加入して5シーズン目を迎える。群馬に来るまでは、Vチャレンジリーグ、地域クラブのチームに在籍しながらトップリーグを目指してきた。
「今までも、『上を目指そう!』というチームに身を置いてきた。縁あって群馬に来て、チームが成長する過程の中に、自分が居られる事がうれしい。SVリーグは国内トップリーグ、小さい頃から憧れていた舞台に立てるというのは想像するだけでも空気の違いを感じる。その場に、立ちたくても、立てないチームがあるというのを感じながらプレーしなければいけない。」と、目指すべき場所に辿り着いた喜びと、その場でプレーする責任を感じている。
グリーンウイングスに来てからも、どちらかと言えば苦労の方が多かった。コロナ過での移籍、そして、昨シーズンまで、キャプテンとしてチームを牽引したが、勝って当たり前のプレッシャーの中でのV2の戦い、勝ち抜いたチャレンジマッチでは、V1勢の厚い壁に何度も阻まれてきた。そして、昨シーズンは、チームもV2で3位、上位との差も感じたし、個人としても出場機会は思うように増えなかった。
「昨シーズン、特に後半は、個人的に悔しいシーズンだった。今シーズンは、プレーで貢献したいという思いで1年過ごしてきた。試合数が44試合になり、絶対に全員が必要になるし、私も、その時、その時で与えられた役割を全うしたい。」と話す。
松尾にとっては、トップカテゴリーで戦える喜びと、昨シーズンの悔しさをエネルギーに、新たな気持ちで臨む、今シーズンだ。
今シーズンのグリーンウイングスは、SVリーグ参入へ向け、多くの新加入選手を迎え、チームスタッフも増強するなど、体制を強化、それが、チーム内に新たな風を吹かせる事にもなっている。その中で、松尾も、刺激、学びを得ながら準備を進めている。
「今までは、小柄なセッターはジャンプトスが正義だと思っていたが、アドバイスを受け、トスの上げ方も少し変えた。そういう所でも、今までの自分にプラスして、新しい事を取り組めた半年だったと思う。30歳になったけど、いくつになっても成長したい。」と意欲的だ。
今シーズンはキャプテンではなくなったが、キャリアとしても、セッターというポジションとして、チーム全体、選手それぞれの状態を見極めて、チーム目標の「8位以内」に向け、まとめていく立場には変わりない。
シーズン開幕に向け、準備を進める松尾に、SVリーグでの戦いのポイントを聞くと、「練習試合していて、上手く行く事も多かった。ただ、取りきれない。大事な所で1本の質が悪くてミスになってしまう。やはり、ゲーム終盤の取りきる力が、上のチームにはあるというのを感じた。改めて、1点の重要性を感じているので、そこを埋めていかないと、『良いバレーでしたね。』で終わってしまう。良いバレーをして、取りきらないといけない。」と話す。
よりレベルが上がるのは明らかで、プレーの精度、ひとつのミスが、これまで以上に、大きな差になってしまう。そうした所で、仲間を引っ張り、そうやって勝利に結びつけていくか。彼女の手腕にも注目だ。
開幕戦は、ホームで迎える。トップリーグ初参戦のグリーンウイングスだが、松尾は、初戦から強い気持ちで勝利を目指して行く。
「シーズン序盤でどれだけ勝ちを積み重ねられるかが初参戦チームには大事。挑戦する側の方がやり易いと思う。チャレンジャー精神を活かして、開幕戦をホームでできるという強みを出して、いいスタートを切りたい。シーズンを通して、自分も、チームも成長できるようなシーズンにしたい。最初に勝てたら勢いづけられると思うから。」と意気込む。頼もしい限りだ。
少し時間はかかったかもしれないが、目指してきたトップカテゴリーの舞台に辿り着いた。苦労も多かったろうが、話を聞いていると、そんな事よりも、自分が成長できること、またチャレンジできることの喜びの方がはるかに大きいように感じる。
「30歳という節目の年で、SVリーグに入れる。新たな気持ちで、新たなリーグに臨めるので、充実した1年にしたいし、年齢的には上だけど、成長して、チームに貢献したい。満足して今シーズンを終えたい。」
辿り着いて終わりではない。SVリーグで、チームのために、自分のために、松尾奈津子は、もっともっと輝いてくれるだろう。
群馬グリーンウイングスにとって初めてのトップリーグ、皆にとって初めてのSVリーグ。グリーンウイングスの選手たちは、それぞれに強い思いをもって、いよいよ開幕を迎える。
大同生命S.V. LEAGUE WOMEN レギュラーシーズン
第1戦 10月14日(月)19:05 群馬グリーンウイングス vs Astemoリヴァーレ茨城(桐生ガススポーツセンター)
第2戦 10月15日(火)19:05 群馬グリーンウイングス vs Astemoリヴァーレ茨城(桐生ガススポーツセンター)