「体ごといって欲しかったなぁ」
FM GUNMAの琉球戦で実況をする私の横で、解説を務めてくれた高田保則さんが、ポツリと呟いた。
後半32分のプレーだ。左サイドでFKのチャンスを得たザスパが、岩上祐三の右足で、ゴール前に絶妙なボールを配給した。GKは出られず、ザスパの選手も複数人が顔をのぞかせたが、誰も合わせる事ができず、ボールは目の前を通過していった。
高田さんは、「体ごといけば、ああいうのはどこかにあたって入るんですよ」と解説してくれた。
ロジカルではないかもしれない。けれど、J2通算407試合出場、歴代9位の76得点を挙げた高田さんは、そんなプレーを続け、ゴールを重ね、サポーターの心を掴んできた。懸命さは伝わる、だけれども、どうしてももどかしさが続くザスパに必要なものが何なのか思い続けていたが、高田さんのひと言にはっと気付かされた。
残留争いのライバル・琉球を迎えたゲームは、ある程度、ザスパの狙いで展開できたゲームだった。勝ち点3差をつけるライバルを迎え、勝利が欲しいのは当然だが、万が一、敗れ、勝ち点で並ばれることは、絶対に阻止しなければいけない状況で、ザスパは、自陣でのミス、そこからの失点を回避するため、長いボールも使いながらリスクを負わないスタイルでゲームを組み立てていった。前線でややボールが収まりにくいシーンはあったが、左サイドの高木友也を軸に、サイドからチャンスは作れ、CK、FK、さらにはロングスローも含め、相手ゴール近くでプレーする時間は多かった。守備でも、数回、危険なシーンはあったが、畑尾大翔、川上優樹、山田晃士を中心に、落ち着いた守りを見せてくれていた。狙い通りの戦いだったが、この日も、ゴールが遠かった。
チームとしての形や崩しもあったし、鈴木国友、川本梨誉らが、個で打開しようとするシーンもあった。言えば、後半16分に加藤潤也のゴールが生まれたかと思いきやファウルで取り消される事案もあった。運にも見放され、どうしても勝利を引き寄せるためのゴールが生まれない。もやもやする思いが続く。
大槻毅監督が就任し、「誰が出てもザスパ」の通り、攻守におけるチームのスタイル、戦い方は明確で、内容あるサッカー、惜しいサッカーが続いている。選手も、一体感ある雰囲気を崩さず、むしろ結束をしながら、大槻スタイルで結果を出すために奮闘を続けてくれている。キャプテンの細貝萌は、「結果が出ていないのは、大槻さんのサッカーを表現しきれていないからだ」と、プレーの精度、質の向上に取り組み、チームの勝利のために先頭に立って努力を続けてくれている。だから、私はこのチームの可能性を信じたいし、共に戦い続けたいと思う。だが、理想に固執してしまっているのではないかと思う自分もいる。
残像としてあるのは、開幕戦のゴールだ。ワンタッチで、面白いようにボールがつながり、完璧な崩しでゴールが生まれた。大槻スタイルが表現された時には、またあのゴールが見られる。そんなワクワク感、期待感でいっぱいなのは今も変わらない。だが、今、求められているのはそうした「美しい」ゴールではない。ザスパサッカーの原点である、「泥臭い」ゴールが必要なのだ。
冒頭にかえり、私が、「まさに、高田さんは、そうした泥臭いゴールでサポーターを魅了してきましたからね」との問いに、高田さんは。「僕は、泥臭いとは思ってなかったんだけどなぁ」と笑いながら答えてくれた。(失礼しました!!)
だが、ザスパを代表するレジェンドストライカーである高田保則という選手は、ロジカルではなく、本能で、仲間を信じ、体を投げ出し、気持ちでゴールを奪い、チームのために、サポーターのためにゴールと勝利を届けられることを証明してきたストライカーだ。
リーグはラスト6試合。サッカーの内容が決して悪いとは思わない。だが、J2残留という扉をこじ開けるために、作り上げてきたサッカーの上に、もうひと押しするパワーが必要だ。それは、理論でも、理屈ではなく、気持ちで、想いで、すべてを投げ出してこそ生まれる「ザスパらしい」ゴールだと思う。